七晩の・中篇

リク小説です。






小十郎は熱い眼差しで、ゆっくりと覆い被さってくる。


「政宗様・・・宜しいか」

「OK、楽しませろよ?」


病の治療と思い込んでいるせいではあるが、いつになく積極的な小十郎に胸が高鳴っていた。


だが、そっと寄せられた唇が触れる寸前で、はっとした。


「Stop!小十郎!」

「はい?」


甘い口付けを交わす寸前で出鼻を挫かれた小十郎は、照れたような呆れたような複雑な顔をしている。


「俺の体液がお前の中に入ったら、病が伝染るって事だよな?」

「・・・そうなりますね」


すっかり当初の話を忘れていた。

束の間の平和なうちに病を済ませておく為、わざわざ慶次から伝染してもらったのである。


「だからこそ、治療と一緒に政宗様から病を頂こうと思っておりますが」

「すっかり忘れてたぜ。こりゃあ楽しみじゃねえか、お前に耳が生えるってのは」

「はあ」


小十郎は気のない返事をしている。

政宗の耳には敏感に反応したくせに、自分の耳に対してはさほど興味がないようだ。


けれど政宗はお構いなしにはしゃぐ。


「Hum、お前は前田みたいに狼の耳とかWildなやつが似合うだろうな。犬・・・は可愛すぎか?犬はどっちかってぇと真田のが似合いそうだしな」


くつくつと楽しそうに笑った。


「熊、とかもアリだよなあ。・・・あ。鷹とかでもいいぜ!本当は俺が生えたかったんだけどよ」

「政宗様・・・そう考えずとも、伝染ればすぐに判ること」

「No!駄目だ。ぎりぎりまで伝染らないようにしろ」

「は?」


政宗は、ニカリと悪戯な笑みをみせて言い放ったのだ。


「俺ん中にいれる時までお楽しみでとっとけ」

「な・・・!」


下品な物言いに、小十郎は咄嗟に小言を言おうとしたが、言葉の内容を反芻して固まっている。


つまり身体を繋げるその時まで、体液が身体に入らないようにしろ、という事だ。

いつも最中には数え切れないくらいの口付けをするというのに。


「・・・全く困ったお方だ」


小十郎が、ふうと溜息をついた。

政宗の考える事はいつも突拍子もなくて好奇心が旺盛なのである。


「けれど、途中で音を上げても知りませんよ?」





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「・・・ふ・・・っ」


冷たくぬるりとした感触に、身震いした。


「冷たいですが我慢できますか?」

「ああ・・・平気だ」


いつもならば熱い舌でほぐされるところを、病が伝染らないようにする為にと、ふのりを使って蕾をほぐしていた。


政宗は与えられる刺激に翻弄されながらも、少し違和感を感じる。


「・・・・・・っ」

「如何致しました?やはり心地よくなれませぬか?」

「そうじゃ、ねえけど・・・」


何か伝えたいのだがうまく言葉には出来ないのだ。


「ん・・・っ」


だが身体は正直に反応して、やや呼吸が荒くなってくる。


「物足りませんか?」

「・・・そうじゃ・・・な・・・い」


その政宗の困惑した様子に、小十郎が、ふっと笑った。


「もしや、お寂しいのではありませんか?」

「な・・・!」


途端に否定をして強がろうとしたが言葉がでてこない。


いつもならば、小十郎の熱い唇や舌が触れることで温かい気持ちを感じていたのだ。

大袈裟に言えば、愛されている、と実感する瞬間なのである。


「・・・お前ばっか、冷静なのが気にくわねえんだよ」


むっとした顔で、ぐい、と小十郎の着物のあわせに手をかける。


現れた逞しい胸板に、つつ、と指を這わして、戸惑う顔を尻目に舌を這わせた。


「政宗様・・・」

「俺は、伝染らないようにしろって言っただけだ・・・気持ちのこもってないような触り方・・・しやがって」


強がりな顔に、ほんの少しだけ寂しさが滲む。


「申し訳ありません。些か意地悪が過ぎましたな」




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