リク小説です。
「耳が生える奇病だ?」
「そそ。七日くらいで落ちるらしいんだけどさあ」
「気色悪ぃなあ・・・耳の裏にもう一枚とか生えるのか?」
政宗は、朝稽古を終えたところで成実につかまった。
珍しい話、というのは大抵成実を通して聞く事が多い。
いつも近くにいる小十郎は、政務をするか野良仕事にでるかという生活なので、俗的な話にはやはり疎い。
必然的に、自分と年も近く割と奔放に町へ出掛けている成実が、一番の情報源となるのだ。
「違う違う。そんな気味悪いもんじゃなくてさ、こう、頭の上に犬やら猫やらのふさふさした毛の耳が生えるんだって!」
「・・・十分気味悪ぃじゃねぇか」
政宗は、呆れて思わず自分の頭の毛をくしゃりと掴んだ。
「まあ、なんとも思ってない子のそんな姿をみても良さはわかんないかもしんないけど、好きな子のだと、もう堪らない感じなんだよ?」
「そういうもんか?」
成実が何故か嬉しそうな顔で話してくる。
「まあ、見ればわかるって。この間も、気になってた可愛い娘が、狸の耳が生えててさあ!!」
「・・・お前は何人、気になってる女がいるんだよ」
「もーーー!!今はそういうのは言いっこナシ!」
「・・・まあ、面白そうではあるか」
「でしょ?何の耳が生えるかも人それぞれだし!梵はなんだろうね?!竜って耳あったっけ?」
政宗は『独眼竜』と呼ばれているからだろう、成実は政宗の病の時には竜になるのではないかと考えているようだ。
「そういうのになる奴もいんのかよ?」
さっきは犬とか猫とか言ってたじゃねぇか、と呆れると、成実が得意気になって話し始めた。
「ほんと、いろーんな種類があるんだって!この間は燕の羽がはえてる男をみたぜ!」
「鳥もあんのかよ。じゃあ俺は鳥の羽がはえてぇな。鷹とかのBigな羽ならなお、いい」
さすがに頭にちょこっと羽が生える程度では飛ぶことはできないかもしれないが、天を自由に飛ぶ鳥に憧れを感じている。
人外の何かが自分の身体につくならば鳥がいい、そう思った。
「おーい、独眼竜―」
稽古場の塀に腰を落ち着けて長話をしていると、ハリのある男の声で呼びかけられた。
「・・・お前、どうしてここにいやがる?」
声の主は、今日も今日とて派手な着物姿の前田慶次である。
けれど、ひとついつもと違うのは、彼の頭に立派な狼の耳が生えていた事だった。
「普通に門からお邪魔したよ。アンタがこの辺の稽古場にいるって教えてもらったからねえ!」
魔王・織田信長との戦で一時行動を共にした為に、慶次は伊達軍の兵士達に慕われている。
慶次は前田の姓を持ちながらも天下分け目の戦に関わりをもたない放蕩者。
敵とみなしていないという事もあるが、ただ単に大らかな親しみやすい人柄ゆえ皆の警戒を解いたのだろう。
「で?お前は流行病でも撒き散らしにきたってのか?」
持っていた木刀でこれ以上近くに寄るなという意志を示す。
「うん、それもアリかなって思ってさ!」
「Ah?」
「前田サン、それどういう事?」
成実も意図がわからず、腕組みをして眉をしかめた。
「おい!前田!!そこで何してやがる?」
そんな三人の会話を遮ったのは小十郎だった。
「ややこしいの来ちゃったよ・・・」
と成実が小さな声でぼやく。
けれど政宗からしたら、何においても腹心の小十郎を一番に信頼している、いわば主馬鹿なので、心なしか嬉しそうな顔になる。
「小十郎」
「政宗様!」
すぐに政宗を背に庇うようにして、鞘から抜いた真剣で間合いをとる。
「あ〜あぁ、相変わらず男臭いところだねえ」
先程から木刀やら真剣やらで、近づくなと威嚇されてばかりいる慶次だが、ぞんざいな態度に少しも気を悪くしている様子はない。
想定していた範囲内の反応なのだろう。
「俺はちょうど奥州来た時うつっちゃったんだけどさ、今の時期にこの病を済ませておいた方がいいんじゃないかなって思って、訊ねたってわけ」
慶次は頭に生えている耳を器用に動かしてみせる。
そして、病の存在すら知らない小十郎は、怪訝な顔で慶次を睨んでいるのだった。