3.side Bontenmaru



性に関する事は、仲の良い従兄弟と書庫の書物をこっそり持ち出して読んでいるので、知識だけはあった。


だが如何せん、耳年増。


他人と肌を触れ合わせる行為には経験がない。

だが相手が小十郎だったら、不安も幾分和らぐというもの。


すっかりその気になってしまった梵天は、好奇心のむくままに行動にでてみる事にした。


「小十郎、背も揉んでくれ」


誘惑するような顔、というのを最大限意識して見詰めてみる。


目の合った小十郎の表情が固まっている。


少しは意識されているんじゃないかと期待していたが、この固まり具合。

一筋縄ではいかないだろう。



挫けそうになるが、今更後にもひけず、背を向けたまま肩から袖を落としてみた。


「っ梵天丸様!」

「・・・なんだよ?」

「あ、いえ、その・・・風邪を召されます故、お召し物はそのままの方が宜しいかと」


今は8月。

如何に奥州の夏が過ごしやすいものとはいえ、風邪をひくという考えにはなかなかならない。


「・・・もう水浴びしてるくらいの季節だ」

「今は日も落ちておりますし、梵天丸様はお風邪を召しやすいですから・・・」


大人の誘惑の態度を崩さないように意識していたものの、うっかりむっとした子供の顔に戻ってしまう。


「そんなのは昔の話だろっ?」



小十郎は心底困った顔をしていた。

そこまで自分に疚しい気持ちを感じてくれていなかったのか、と少し腹立たしくなる。


梵天はまだ十歳、そして人より細身で実際の年よりもう少し幼く見えるくらい。

その容姿は棚に上げ、気持ちばかり大人のつもりでいるのだ。


「もういい。他の者に頼むから呼んでこい」

「!」


やはり小十郎をその気にさせるのは無理だったか、と今回は諦める事にした。

別の方向で意識させるように仕向けなければ・・・と、もう他の作戦を考えはじめる。


いつまでも退室する気配がない小十郎に気付き、振り返ると、少し怖い顔をしていた。


「・・・小十郎?」

「え・・・?」


声をかけると今覚醒したかのように、はっとした顔をする。


小十郎が自分の前で物思いに耽る事は珍しい。

よっぽど気に食わなかったのだろうか。

少しだけ胸が痛んだ。


「無理を言って悪かったな。そもそもこれはお前の仕事じゃねえ」


なおも口を閉ざす小十郎に、胸の痛みが強くなる。


「もう・・・でていけ」


「梵天丸様・・・・・・申し訳ありません・・・っ小十郎は・・・」


悲痛な声で謝罪されると、遠い心の距離を実感させられるようで恨めしくも思ったが、無理強いするのは本意ではない。


「もういいって。・・・これで許してやる」


そんなに謝るなら謝る気をなくしてやるしかない、と意地悪を思いついて、小十郎の顎に手をかけるとその唇を塞いでみた。





4.side Kojuhrou



肌理の細かい白い背を露わにされた時は、息をするのを忘れる程の衝撃が走った。


まだ幼く小さな背は、掻き抱いたら壊れてしまいそうで、その危うさがますます小十郎の心を乱した。


平常心を保つ為、どうにか素肌を隠してもらおうと説得するもうまくいかず、あろうことか、「ならば他の者に」とおっしゃるのだ。


それだけは断固として・・・譲りたくない。

だが、直に背中や腰などに触れて自分が平静を保てるか、自信がもてない。



ここはもう、正直に理由を話し、梵天丸様に思い留まってもらうよりないのではないかという考えに達した。

理由は勿論、嘘偽りを告げるのは本意ではないからだ。


自分がむっつりである事は自覚している。


だが、梵天丸にそれを軽蔑されたら・・・と思えば、躊躇するのは当たり前だろう。



幼い、同性の、主に・・・



・・・・・・・・・っっっ


小十郎は葛藤のまま心の中で声にならない絶叫をした。



これは、疚しい感情というより忠誠心ゆえ、愛情ゆえの・・・


ぶつぶつと考えていると、梵天の声で現実に引き戻される。


少し傷ついたような顔を見るやいなや、主が心を痛めるくらいならば、自分が変態扱いをされて蔑まれた方がよっぽどマシではないかという考えに至り、ひと思いに懺悔する事を決意する。


「梵天丸様・・・・・・申し訳ありません・・・っ小十郎は・・・」

「もういいって。・・・これで許してやる」


梵天は、小十郎の謝罪の言葉は、背を揉むことを拒否したという方向で捉えたのか、オネダリをやめたようだ。


上半身を露わにしたそのままの姿で・・・

小さな唇で口付けをしてきた。



顔にはあまりでないが、むっつりで梵天の事ばかり考えている小十郎からしたらこれほどの攻撃はなく、
理性などは跡形もない。




□■4■□