ようやく、お仕置きの間から出された政宗は、開放感からのびをする。
「小十郎、悪かったな・・・」
物置の中で反省したように、小十郎に謝罪した。
バツが悪くちらりと目線をやると、困ったような笑顔を向けられた。
「いえ。小十郎も頭に血が昇ってしまい、行き過ぎたところがございました」
「じゃー喧嘩両成敗だな!」
そのまま放っておけば長々と謝られそうだったので、早々に打ち切ることにした。
その意図を読んでか、小十郎も気を取り直したようにひと呼吸つく。
「政宗様、こちらに」
「What?」
見ると、タライに湯と布、新しい着替えが用意されていた。
ああ、と思い出したように己の姿をみれば、先程成実に管を巻いていた時は地べたに座っていたせいで、身体のあちこちに土がついている。
さっきはこれを取りに行っていたんだな、と納得した。
暗闇の中では些か感傷的になってしまったが、やはりこの男だけは、と思わずにはいられない。
「お前は、ずっと俺の背中を守れよ?」
「無論。この身に代えましても」
いつもの迷いない返事に、こっそり安堵の溜息をつく。
そんな胸の内を知ってか知らずか
「失礼します」
と、着物を脱ぐ手伝いを始めた。
「Stop! 自分で拭く」
慌てて拒否したのがまずかった。
政宗の異変に、小十郎が訝しげな顔をしている。
「困った殿、ですな」
「!」
この男に隠し事などできるはずもなく、すぐに気付かれてしまった。
先程色々思い出してしまったせいか、政宗の中心は赤く腫れていたのだ。
布越しに立ち上がったそれに気がつくと、少し人の悪い笑みをしてくるのが憎たらしい。
「小十郎は気にしませんから、まずお体を清めちまいましょう」
そのままでは、横にもなれませぬぞ、と付け加えられる。
まだ誘ってもいねえのに自意識過剰な奴だぜ・・・!と負け惜しみを言いながら、腹をくくって裸体を晒した。
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成長した政宗の身体は、しなやかで美しい。
均整のとれた体は無駄なものがついていなかった。
床を共にする事はあっても、灯りのついた部屋でまじまじと裸をみつめる事はないので、自然と目が釘付けになってしまう。
「あんま、見んな・・・」
禁欲的にも思える程整った白い身体の中心で、真っ赤に震える性器が艶かしい。
「目の毒にございますな・・・」
「じゃあ見るな・・・とっとと拭きやがれ」
言われた通り、そっと水気を含んだ布で足を清めていく。
「つめて・・・」
「申し訳ない。湯を用意しましたが少し冷めてきてしまいましたな」
すぐに新しい湯をお持ちしましょうと腰をうかせたが、すぐに制される。
「いや、いい。めんどくせえし・・・」
恐らくは、身体が火照っているせいで冷たく感じてしまったせいもあるのだろう。
「左様で・・・」
そのまま黙々と汚れを拭っていく。
「少々気持ちが悪いかもしれませぬが、今宵はだいぶ飲まれております故、湯浴みは明日にしてくださいませ」
一通り拭き終わると、さすがに湿った肌が外気で冷やされたようで、ぶるりと身震いした。
「小十郎、あっためろよ・・・」
「・・・御意に」
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最初からこうなる事はわかっていたと言わんばかりの、平然とした態度が面白くない。
そういえば先程思い出した初めての夜、あの日の小十郎は少し余裕がなかったし、今よりずっと荒削りで可愛らしかったのではないだろうか?
最後まで事に及ばなかったものの、結局あの後も散々弄られて、疲れて眠るまでやまなかった愛撫。
一方的に吐き出させられた欲望。
今はといえば、やはり政宗がたまにねだって身体を重ねる事はあるが、どこか遠慮がちというか、神聖なものを抱いているといったような厳かな儀式のように感じる時もある。
つまりは本気をだしていないのではないか?
「・・・なあ、小十郎。初めて閨事をした時にした触り方覚えてるか?」
ぴくり、と小十郎が出しかけた手を止める。
「もう一回、あれ、やってみてくれねえか?」
そうあの日だけは様子が違っていたのだ。
寝られそうだからと自室に戻ろうとした梵天をかき抱いて、もう一度長い長い愛撫を施され続けた。
その時は、今では考えられないような恥ずかしい事をされた気もするし、まるで現実からその夜だけぽっかりと切り抜けるのではないかと思うくらい、異質な時間だった。
「あの日は些か我を忘れていました。本当は次の日に腹を切ろうかと思ったくらいでして」
やはり思った通りだ。
同じ身体を重ねる行為でも、あの一日とその他とでは違いがありすぎる。
小十郎が本気かそうでないかの違いなのではないか?
「長い間随分舐めた真似しやがって。本気でこいよ、小十郎?」
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思わず、長い溜息がこぼれる。
「後悔されますなよ?」
「ああ。後悔はしねえ。だが腹切るのは禁止だからな?閨事で腹切る馬鹿は右眼とは言わせねえぜ」
小十郎は未だに迷っていた。
それまで予兆はあったものの、あの日初めて梵天とそういう仲になった時、自分の中の箍が外れる感覚がしたのだ。
心から大事に思い愛してやまない主を組み敷いた時の、電流が走るような快感。
濃密な時間が終わった後、やけにスッキリした顔で出て行こうとした梵天を見た時に、一度曝け出してしまった気持ちを抑える事ができなくなっていた。
このまま帰したら、二度とこの手に戻ってこないのではないかという不安に苛まれたのだ。
嫉妬や独占欲といった、自らの身勝手な愛情で縛ってしまいそうになり、今までの優秀な傅役という役割が果たせなくなるという事実に愕然としたのだ。
その日からは一層己を律して、夜伽をねだられて肌を重ねようとも、心だけは理性を保つ努力をしている。
「この小十郎の愛情は、重たいのですぞ・・・」
どうにか思いとどまってほしくて気休めを口にするが、当然とりあってくれるはずもなく、早くと自らの裸体を押し付けてくるのだ。
だが、一度気がつかれてしまった事実。
鋭い主の目を謀ることは出来ないだろう。
―――腹括るしかねえのか・・・?
「嫌わないでくださいよ」
苦笑いをして呟くと、噛み付くような口付けをした。