インテリアショップのキッチンコーナーで、政宗がOh!とかWao!!とか一人でテンションをあげていると、いつの間にか小十郎とはぐれてしまっていた。
さすが大型店だけあって、同じコーナーだけでも棚が何列も陳列している。
加えてこの混雑。
すぐには姿を見つけられなかった。
他の店に行っている事はないだろうから、インテリアショップの外で待っていればいずれ会えるとふんで、入口にあったベンチに向かう。
すると、同じ考えでいたのかベンチの近くに小十郎の姿があった。
が、一人ではなく、知らない男と一緒にいる。
「小十郎?」
誰だろうかと近寄ると、その男も政宗に気がついて、途端に興味津々といった面持ちで見詰めてきた。
「政宗。・・・こいつはさっき偶然会ったんだが、同僚の」
「猿飛佐助。宜しくどうぞ!」
明るいオレンジ色の髪の男は、人懐こく笑って目の前に手を差し出してくる。
「伊達、政宗」
とりあえず名乗るのは礼儀だろうと、名だけ口にして。
握手か?と迷いながらも手を出すと、おもむろに小十郎にそれを遮られた。
「ちょ、ちょっと〜片倉センセ酷いよー別に取って喰おうなんて思ってないよ〜?!」
「・・・お前ならやりかねん」
同僚というのだから同じ高校で教師をしているのだろうが、話し方や服装、容姿と、どれをとっても全然想像がつかない。
大学生と言っても通用するし、むしろその方が自然なくらいなのだ。
「変な言いがかりやめてよー!!ねー政宗クン、酷いと思わない?」
「伊達、だ!馴れ馴れしくするな」
有無を言わさずにきっぱり言い切った小十郎に、佐助は心底気味の悪いものを見る目つきになる。
「うわ〜・・・この人キャラ変わってるんだけど!!」
そのやり取りに、さっきまでの大人の男はどこ行った、と思っておかしくなってプッと政宗も吹き出した。
そしてその二人からの反応に、小十郎は珍しく焦って言い訳を始める。
「こいつが変に詮索してきて、政宗に興味沸いたから紹介しろなんて言うものだからだな・・・」
「そりゃ興味沸くでしょ!堅物で浮いた話一つない片倉センセが、急〜に二人暮らしはじめたなんて聞いちゃあねー」
「・・・浮いた話、全然ないのか」
今度は佐助の言葉に政宗が興味を示し始める。
「意外でしょ?!一部の怖いもの知らずの女の子からはもてるっぽいんだけど」
「怖いもの知らず??」
「そうそう、オトコマエだけど顔怖いじゃん?片倉センセって」
「Ah―言えてるな」
こうして二人が仲良さげに会話をしていると、若者同士が話していて小十郎がその引率のようにみえる。
「おい、いい加減にしねぇか」
小十郎が殺気立ってるのをみて、佐助は、おおっと俺様そろそろ退散しようかなぁ〜なんておどけてみせた。
「じゃー伊達ちゃん、お邪魔して悪かったね。今度片倉センセの家遊びに行くね!うちのチビさんも連れて!!」
「おう」
小十郎が、呼んでねぇぞ!とすごんで見せたが、気にする様子もなく笑顔で手を振って、器用に人混みをすり抜けていく。
「チビって・・・あいつあんなナリで子供いんのか?」
「いや、あいつは結婚もしてない・・・親戚の子供と一緒に暮らしてるって聞いた事があるから、そいつの事だろう」
「ふーん。俺子守できるかわかんねぇぞ」
「・・・・・・」
来る事前提で政宗と佐助の話が進んでいるので、小十郎はそれ以上この話題に触れるのはやめたようだ。
「それより、目星ついたか?」
「あ?」
さっきのキッチンコーナーの所の話だろう。
うーん・・・と唸って目を上目にやって考えて。
「ハカリと計量カップが欲しい」
「よし、じゃあそいつを買いに行くか」
今度ははぐれないようにと小十郎が政宗の手をとって店内を歩いたので、予想外の状況に政宗は平常心を保つ事に必死だった。
絡めた指が熱い。
それからバスタオルを数枚買った後、遅めのランチをする事になり、オープンテラスのあるイタリアンに入る。
ピークの時間を過ぎていた為に店内は空いており、周りを気にせずにゆっくりできた。
他愛もない会話をしながらの食事は楽しい。
今までは、部屋で一人の食事が当たり前だった政宗からしたら、特別な日のように楽しく思うのだ。
店をでて車に戻った頃には、少し日が傾き始めていた。
「人混みは疲れるぜ・・・」
政宗がぎゅーっと目を瞑っている様子を見て、小十郎が心配げな顔をする。
「大丈夫か?」
すり、と左瞼の近くをさすられて、心配の意図に気付く。
隻眼の政宗は、人よりもほんの少しだけ目が疲れやすい。
「ガキの頃からだから慣れてる。心配すんな」
それよりも外で躊躇いもなく触れてくる事の方が、よっぽど慣れないと伝えたくなった。