―――今の、顔は?!
小十郎は動揺していた。
恋が成就されて舞い上がっているという事実を差し引いたとしても、政宗に対しての過保護な気持ちというのものが尋常ではないようで、一瞬見えた表情の翳りに心が乱れた。
政宗が、終始笑顔で見送っていた時に、何故気がつかなかったんだと自分を罵る。
やはり片倉の家に謝って今回の帰省は辞めるべきだったのだ。
都内を出発した新幹線は、出発から2、3個目の駅までは比較的駅間が短い。
二十分程揺られた次の停車駅で、我先にと降り立ち、すぐに折り返す列車に乗り換えていた。
居ても立っても居られず咄嗟にUターンをしてしまったが、政宗に連絡をとる手段は相変わらずないのである。
政宗は今時珍しく携帯を持っていないし、実家の番号は知らない。
今すぐに同じ駅に戻っても、四十分以上のロスをしているから、まだ政宗が駅付近に居るという可能性は少ない。
―――何をやっているんだ、俺は・・・
会えないかもしれないけれど、このまま遠方に行く気など失せてしまった。
確証はないけれど、どうにか会えるんじゃないか、なんていう気もしていて。
小十郎から普段の聡明さは消え失せていた。
―――政宗に、会いたい
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新幹線の駅でも、政宗の実家のある一つ隣の駅でも、小十郎のマンション近くの駅でも、政宗は見つからなかった。
そりゃそうだ・・・、そう思ってうな垂れる。
旅行カバンを持っているので、ひとまず今日のところは帰ろう。
明日、政宗の実家を突然訪ねたら迷惑だろうか。
帰省すると帰ったくせに、次の日にはやっぱりやめたと政宗を引き取りに行ったりしたら印象が悪いだろうなあと、ぼんやり思う。
結局政宗が家を訪ねてきてくれるまで待つしかないのか、そう途方にくれながらマンションにたどり着いた。
出発は昼前だったというのに、もう陽射しが赤くなり始めている。
すると、部屋の扉の前にうずくまっていたのだ。
半日かけて探していた政宗が。
「・・・まさ、むね・・・」
「・・・!こ、こじゅ」
政宗が慌てて立ち上がったのと、小十郎が駆け寄ったのはほぼ同時だった。
「な、んで・・・」
「お前が・・・心配になって・・・」
「・・・大丈夫だって言っただろ」
「ならどうしてここに居るんだ」
「ち、ちが・・・本当に今帰ろうと思ってたとこだ。少し寄りたくなっちまったんだよ」
なぜ、三日は帰ってこないというのに部屋の前にいたのか、小十郎にはわからない。
「余計に寂しくならないか?」
「・・・っうるせ・・・でも、小十郎がいつもいる場所だし、これから俺が暮らす場所・・・だろ?」
「ああ」
「今日は予定もなかったから、軽く寄っただけだ。けど、来たら、小十郎が居ねぇんだって実感して・・・」
寂しくなった
そう続くのだと思うのは、決して自惚れではないと思う。
なんだかたまらなくなって、玄関先だというのにぎゅうと抱きしめた。
「・・・っこじゅ、ろ」
「お前を理由にしたが、本当は俺が離れたくなかっただけなのかもしれないな」
「!」
そう呟くと、政宗が耳まで赤くして睨んできた。
「なんで睨むんだ?」
と可笑しくなって笑ったら、有無を言わさず早く中入れろと鍵を開けさせ、部屋へ押し込められた。
今度は今朝の列車とは違って、政宗も一緒に。
「ばかこじゅ」
今度は政宗の方から小十郎の背中にしっかりとしがみついてきて、その拍子にとれた帽子の下から毛並みの良い耳が覗いているのだった。