とりあえず、聞き間違えを期待したい。
そのまま意味不明な口を塞ぐことにした。
「ちょ、待てってば」
「黙れ」
「!・・・んっむーーーー」
政宗の言葉は二人の口内で意味を成さない音となる。
ガゴ
一瞬目の前が白くなった。
「シカトしてんじゃねえ!!」
頭突きが額に炸裂し、思わず頭を抱える。
「・・・・・・っ」
「俺が、最後の思い出にしようとしてる努力を何だと思ってやがる!」
いつの間にか裾から顔を出した尾が苛立たしげに逆立っていた。
「・・・最後の思い出ってなんだ」
「っ・・・俺は・・・あんたみたいな奴に会ったの初めてだ。・・・こんな俺でも、変な目で見ねえし、ほんとの姿みてもひっついてくるし・・・」
政宗がひっついてくるのを可愛がっているつもりでいたのだが、それはこの際つっこまないでおく。
「それで・・・あんたを好きかもって思ったら、うまく“人間”でいられなくなってきて、今日も朝起きて、あんたに会えるって思ったら・・・また耳、でてきちまって」
どきん、と心臓が跳ね上がる。
本当になんて可愛い事を言うのか。
どうやら、うまく制御ができなくなってしまったのは恋をしたから、という事らしかった。
「けど、このままじゃ普通に生活する事もままならねえ。だから、あんたと会うのを今日で最後にしようって思って来た」
ようやく今までの辻褄が合った気がする。
好きでいることで、自分を保てなくなったから、嫌いになりたい、と小十郎を逆上させようとしたり。
それが無理だったから、自分をふってくれ、と訴えてみたり。
なんて世話のやける奴なんだ。
政宗の主張を全て聞き終えると、はあと盛大な溜息をついた。
「・・・勝手に最後だとか言いやがって。じゃあ俺の気持ちはどうしてくれるんだ?」
「・・・っ」
「俺も、好きだから付き合ってくれっていう選択肢はねえのか?」
「ね・・・ねえ!!!!!」
政宗が動揺して目をそらす。
怯んで大人しくなった隙に、勢いよく政宗の肩を掴みソファへと押し倒した。
「・・・つっ」
上から覆いかぶされば、狭いソファでは逃げ道などない。
「え・・・ちょ、まっ」
政宗が慌てて抵抗するが、もう聞くつもりはなかった。
「大人しくしろ」
「・・・っば、ばかやめろっ」
構うことなくTシャツの裾から手を差し入れ、素肌を撫でさすっていく。
「ふ・・・っ」
「政宗、頼むから諦めてくれ」
「・・・?」
「諦めて俺のものになれ」
「・・・は!?」
再び口付けを降らせる。
先程から幾度となく重ね合わせたそこは、お互い熱を持って熱い。
「だ・・・だめ、だ・・・おれは・・・っ」
「・・・母親をおいて、自分だけが幸せになるのが怖いのか?」
「・・・っ」
腕の中の抵抗の力が弱まった。
「く・・・っ」
力の抜けた肩が小刻みに震えている。
「・・・・・・何笑ってんだ?」
政宗が、久し振りに見せる笑顔で吹き出していた。
「だ、って・・・おまえ、自意識過、じょ・・・、勝手に幸せとか・・・っ」
「・・・じゃーなんだ、お前は好き合ってる者同士が一緒にいるのは幸せじゃねえって言うのか?」
馬鹿にされていても、笑顔がみれるならば悪い気がしない、というのは相当重症かもしれない。
「耳なんてどうにでもしてやる。引っ込まないっていうなら、家の中にいればいい。一人を食わせていくくらいの甲斐性はある」
どんだけ甘やかす気だよ、と政宗は呆れ笑いをした。
「政宗が、好きだ」
多分、今の小十郎の顔は、ひくくらいに怖い。
真剣であるが故の鬼気迫る表情なのだが、普通の人がこの顔に告白などされたら、一体なんのイジメなのかと半泣きになるかもしれない。
だが政宗は、泣き笑いのように、顔をくしゃりと歪めた。
「・・・Give upだ 幸せだよ、怖いくらいにな」
伏し目がちにそう言うと、小十郎の首にしがみついた。
「全く・・・最初からそう言えってんだ、この天邪鬼が」
小十郎は悪態をつきながら政宗の頬にキスをした。