小十郎は、朝刊を開きながら欠伸をする。
昨夜はよく眠れなかった。
―――政宗の事、絶対おとしてよね
成実が言い残していった言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。
そういうつもりじゃないとか、男同士だとか、今更言うつもりはないが、政宗の気持ちを尊重したい。
「既に一回玉砕してんじゃねえか」
成実が言うように、政宗が母親への責任を感じて家に縛り付けられているのなら、尚更助けてやりたいと思う。
けれど、本人がそれを望んでいないうちは、どうにもできないではないか。
ピンポーン・・・
不意に間延びのするチャイムが鳴った。
オートロックの画面には、帽子を目深に被った政宗の姿が映し出されている。
玄関からちゃんとやってくると思っていなかったので驚いた。
それにまだ8時だ。
「おはよう・・・ゴザイマス」
「・・・お早う」
部屋へあがると、ぎこちない挨拶。
「随分早いんだな」
小十郎の言葉に返事もせず、政宗は無言のまま帽子を脱いだ。
すると、あの耳がもう現れていた。
「・・・」
当然尾もあるのだろうと、政宗のズボンの方にも目をやる。
今日はカーゴ系の少しゆとりのあるハーフパンツを履いていて、その中に隠しているのか、外から見た感じではわからなかった。
「・・・じろじろ見んな」
ムッとした顔で頬を赤くしている政宗と目が合って、疚しい気持ちなどなかったのに、何故だか気まずく感じる。
「本当に制御できなくなっちまってるんだな」
今日は土曜だ。
土日は学校はないだろうから問題ないが、このままでは日常生活がままならないのではないか。
不可抗力とはいえ、自分がきっかけであったのならば至極申し訳ない気持ちになる。
「この間、キスすると、変身しちまうのかと思ってたんだが・・・」
「Kiss??!」
「・・・?ああ。2回とも、それで耳がでただろう」
違うのか?と覗き込むと、呆れたような顔をしている。
「そんな簡単なら困らねえよ」
まあ、それもそうか、と納得するが、ならば何が原因だというのか。
「やっぱり、このままにしとくわけにはいかねえから・・・」
「ああ」
「白黒つけねえのは性にあわねえんだ・・・」
そこまで言うと、意を決したように小十郎の胸倉を掴んできた。
「今度はなんなんだ・・・」
小十郎は、はあ、と溜息をつく。
昨日はナイフで殺人未遂。
今日は胸倉掴んで、殴り合いでもする気か?
「あんたが・・・好きだ」
「・・・???」
政宗は耳を後ろに向けるように垂れさせて、僅かにその毛を震わせている。
羞恥の為だろう、頬まで染めて。
今の今まで、どうやって政宗を振り向かせて、ここへ引っ越してこさせようかと考えあぐねていたのだが、一体どうなっているのだ?
小十郎は混乱ですぐに言葉がでずに、口をあけて目を丸くする。
「・・・。小十郎」
政宗も口をあけている―――そうぼんやり思うと、その口は、噛みつくようなキスをしてきたのだ。
「!」
そこでようやく我に返る。
告白されて、深い口付けをされているのだと。
すぐ離れるかと思っていたそれは、角度を変えて何度も触れてくる。
小十郎も、促されるかのように唇をはみ、舌を絡めた。
「ふ・・・」
政宗が苦しそうにつく息はひどく暖かい。
唇が離れる合間に盗み見た瞳は、潤んで目尻が赤く感じた。
「・・・ん!・・・んん・・・」
可愛い。
可愛くてたまらなくなって、なおも貪欲に唇を貪った。
「は・・・こじゅ・・・ろ・・・」
力の入っていない手を、小十郎の両頬に添えて、何か訴えてくる。
離れがたくて、かすめるようなキスを続けたまま、瞳をあわせて続きを促す。
「ん・・・っ」
その緩やかな動きにも、敏感な反応をみせて息が乱れている。
「は・・・」
たまらずまた舌を侵入させて唇に吸い付いた。
押し倒してしまいたい衝動に駆られ、政宗の首元に手をすべらせる。
すると、いやいやをするように抵抗して、胸を押し返された。
「こ、小十郎。Thanks もう大丈夫」
「・・・?」
「だから、もう終わり。俺の事ふってくれねえか」
え。今なんて言いやがった?