「政宗様」


佐助は朦朧としはじめた政宗の夜着を大きく肌蹴させた。


白くきめ細かい肌に音をたてて吸い付いては、反応を楽しむかのように尖りに噛み付く。


「ふ・・・」

「可愛らしいですね、政宗様」


政宗は熱に浮かされた瞳を泳がせている。

術中にはまって、佐助が小十郎に化けている事を忘れてしまったようだ。

目の前にいる小十郎の姿を、自分の幻想か、もしくは本物の小十郎だと思っているかもしれない。


脇腹に指を這わせると、くすぐったさがあるのか、ふるりと震えた。


「そのまま大人しくしていてくださいね」


政宗の白い肌が少しだけ色づいているのをみて、そっと自分の下半身を密着させた。

すると、布越しにも熱く昂った政宗の雄が感じられる。


「・・・」


熱に浮かされた政宗の姿は、見る者の欲望を引き出す、何か強烈な色気があった。


佐助の雄も知らぬ間に昂っていて、思わずそれを一緒に摺り寄せるようにして腰を動かしてみる。


「ふ・・・、んあ・・・こじゅう、ろう」


政宗は潤んだ瞳で、佐助にしがみつくように首に手を回してきた。


「政宗様、は・・・甘えん坊でいらっしゃる」

「・・・お前が、一番知ってる・・・だろう」


そしてそのまま唇を寄せてくる。


佐助は毒を仕込む時間稼ぎのつもりで、夜伽の真似事をしていただけだったが、抗えない色気についその唇を啄ばんでいた。

このまま意識を飛ばしてくれるくらいに身体を繋げてからの方が、毒を盛るのに都合がいいかもしれない。


「ん・・・んあ」


政宗は熱い舌を絡めて、腰を摺り寄せてくる。


「ん・・・」


佐助も応えるように舌を絡ませて、政宗を求めてみた。


「・・・っっんん」


すると、想い人である小十郎から求められたと思った政宗は、より深く唇を重ねて、佐助の身体をまさぐってくる。


―――やば・・・止まらなくなりそ


この痺れ霧を生成した佐助自身には、霧にだいぶ耐性がついているし、より耐性を強める為に抗体の役割になる解毒剤も飲んでいる。

とはいえ、なにか別の事に気をとられれば、同じように意識に靄がかかってくる危険性はあった。


「な、あ・・・小十郎、俺の、舐めてくれねえ?」


ごくり、と佐助の喉が鳴った。

いつの間にか政宗は自らの下帯をずらして、その欲望を覗かせていた。


「まさ、むね様」


政宗はそっと佐助の身体をよけると、力の入っていない身体をゆっくりと動かして立膝の体勢になると、自分のものを掴むようにして佐助に見せつける。


「・・・っ」


佐助は抗えない色香に、霧とは別の事で頭がくらくらとした。

逡巡したのは一瞬の事で、すぐに屈むようにして目の前の政宗の欲望に触れ、口を開く。


「・・・?」


するり、と、佐助の唇をなぞるようにして政宗の長い指が触れていき、その口を大きく開かせるかのように指を差し入れてきた。

そしてそのまま自らの雄を突き入れてくる。


「・・・っん・・・っ」


何かの異物感を感じたものの、すぐに腰を揺さぶってきた政宗に、意識がそらされた。

喉の奥まで侵入してきそうになるのを留めるようにして、政宗の腰を掴んだ。


「ま、さむ・・・っ」


容赦のない突き入れに、頭上の政宗の顔を仰ぎ見る。


「こじゅう、ろう・・・。いい、ぜ・・・あいつに、されてるみてぇ」

「・・・?!」


ずるり、と勢いよく政宗は雄を引き抜くとにやりと笑った。


―――あいつに、されてるみてぇ


その言葉は、つまり政宗が覚醒している事を表していた。


「・・・っ独眼竜。意識、戻ったの?」

「Ah?とっくだぜ」


佐助は違和感の残る喉をさすりながら、珍しく悔しげに表情を歪めた。


「うまく、飲んでくれたみてぇだな」

「!・・・なに、を?」


佐助は背中がひやりと冷えていく気がした。

先程の違和感は気のせいではなかったのだ。

確かに、政宗に何かを飲み込まされたようである。


「う・・・っぐ、う・・・」


佐助は吐き出そうしたが、途端に動悸が早まり胸が苦しくなってうまくいかない。


「安心しな。今生では何も支障はないはずだぜ。まあそれを確かめる為に飲ませたんだけどな」

「・・・なん、なの。これ・・・っ」


ぜえぜえと息をついてやっと問いかけると、政宗は相変わらず妖艶な笑みをして、小さな木箱を目の前に置いた。


「来世で望む人間ともう一度再会できるっていう丸薬だ。romanticだろ?」

「は・・・?そんな薬・・・・・・。・・・」


そこまで口にして、自分の里に古くから伝わっている宝の事が頭をよぎった。

この世に二対だけしか存在しないという、四匹の鬼を封じ込めて作られた丸薬。


忍びの里では神聖な薬として代々奉ってきたし、誰もその薬に手を出そうなどという輩はいなかった。

だが、どれだけ前の事だったか、その宝が盗まれたという風の噂を聞いた事がある。


「忍びの里から奪ったもんらしいぜ。あんたも何か聞いた事あるんじゃねえか?」


まさか自分の里だなどと言う気にもなれず、佐助は目を反らして誤魔化した。


「そんなの、あるわけないでしょ。そんなもの信じるなんて、まだまだお子様だね」

「まあ、言いたくなきゃいいぜ。お前に飲ませたのは記憶が残る方の丸薬だ。そんでこっちが・・・」


政宗は、差し出した木箱の蓋をそっと開けた。


「片割れにひかれていく方の丸薬だ」

「・・・・・・」


佐助が丸薬の事を知っているという前提で話している事に、少なからず腹が立つ。


「あんたにやるよ。一人でいらねぇ記憶を来世まで持っていくか。道連れを作るかは自分で決めな」


にやりと笑った顔は、その迷いを味わっているからこそ、これからの佐助の胸中を見透かしたものだとわかる。


「やってくれるじゃない。ここで返り討ちにするより・・・死よりも辛い生ってわけ?」

「Ha!随分後ろ向きじゃねえか。もし相手も望むんなら、これほど素晴らしい薬はねえだろうが」


そこで、廊下に強い殺気が走り寄ってくる気配がした。

反射的に変わり身の術を解くと、案の定、今の今まで自分がその姿を借りていた、小十郎本人だった。


「政宗様!」


佐助は、やれやれと首を振った。


一人ずつだって対等に渡り合うのもままならないような武人二人に囲まれては分が悪い。


だが目の前の独眼竜は、自分を殺す気はないようだ。

大人しく逃げるのが得策な事はわかるが、このまま甲斐に戻り、丸薬の片割れを飲ます飲まさないで葛藤しなければならない日々を思うと心が重たくなった。


政宗には、葛藤する対象の相手がいる事を知られてしまっている。

その上でこの悪趣味な薬を飲ませるこの男は、本当にくえない人物だ。


そうでなくとも、情事の最中を狙って毒を盛ろうとしていたところを、逆に自分が飲まされてしまうとは情けないにも程がある。


これも、幸村の好敵手である独眼竜を勝手に葬ろうとした報いなのか。


「俺様、仮にも同盟を結んだ国の忍びだよ?殺す気満々でこないでよね、右目の旦那」


それでも平常心を装って、佐助は目の前の本物の片倉小十郎に声をかけたのだった。




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