脱衣所で、気恥ずかしさから不機嫌な政宗に、先に入って待ってろ!と言われて小十郎は風呂場に入った。
―――ちと強引すぎたか
豪勢で美味しい手料理を作ってもらって、プレゼントは大成功して。
ひょっとしなくても浮かれてしまっていた。
政宗がご機嫌斜めにならないといいがと思いながらも、まだかまだかと気が逸る。
「こじゅう、ろう」
ガチャ、と風呂場の扉が開いて、政宗が顔だけ覗かせた。
羞恥からか膨れたような顔をしているが、声音は甘さを含んでいる気がする。
「・・・じろじろ見るな。後ろ、向けよ」
「後ろ?・・・ああ」
言われたまま政宗に背を向けるように座り直すと、扉を閉めてペタペタと歩く音。
見えない方があらぬ妄想を膨らませて昂るという事を、同じ男ならわかりそうなものなのに。
何度かの掛け湯ののちに、そっと湯船に入ってきた。
「もう、いいか?」
ついつい笑いを含んだ声をだしてしまう。
「うるせぇ」
いいという返事はしてくれないまま、政宗がピタリと小十郎の背中にひっついてきた。
「!」
「あったけぇなー・・・」
自分で風呂に誘ったというのに、突然滑らかな裸に抱きしめられて心臓が跳ね上がった。
「あ?・・・でもちょっと温めか?」
「ああ、また倒れないように少し水足したぞ」
「・・・Thanks」
越してきた初日に、政宗は風呂で逆上せて倒れた事があった。
風呂はあまり得意ではないのだろうから、ここで行き過ぎたちょっかいを出すつもりはない。
ただ一緒に風呂に浸かり、素肌を寄せ合いたかったのだ。
けれど政宗が背中にひっついたままでは顔が見れない。
身体を動かそうとしたら、軽く、ちゅ、と背中に口付けられて驚く。
首だけよじって政宗に目を向けた。
「な、なんだよ!別に口つけたっていいじゃねえか」
「・・・ああ、どんどんやったらいい」
「!」
政宗はこちらが迫ると途端に逃げるが、小十郎が迫る素振りを見せていない時は、基本的に自分から懐いてくるのだ。
天邪鬼なのだか、素直なのだか、もはや政宗の性質である。
それならば。
自分は行動を控えて政宗の好きなようにさせるのもいいかもしれない、という考えが閃いた。
広めのバスタブとは言え二人で入ればさすがに狭いが、無理矢理動いて政宗と身体を向き合わせた。
「!なんだよ・・・」
ひっついていた背中から剥がされて面白くなさそうな顔をしているのと、向かい合った小十郎にあからさまに警戒もしている。
すぐにサッと膝を抱えて、身体もそれとなく隠された。
「そう警戒するな。こんな所では何もしないから」
「・・・」
しばし間をあけたものの、小十郎が基本的に自分に酷い事をしないと知っているからだろう、警戒が解かれていくのが分かる。
「俺からは、何もしないから安心しろ。 ほら、くっつくんだろ?」
「・・・おう!」
こんな所では、とか 俺からは、とか
言葉の裏に隠された意味までは深く考えていないようで、完全に耳と尾の緊張が抜けたようだ。
膝を折り曲げた状態のままだが、そっと小十郎の足の間に入ってきて、肩口に頭をこてりとのせてくる。
それだけでも理性がぐらぐらと揺さぶられるが、今は政宗のご機嫌とりが先だ。
「政宗、おいで」
自分の開いていた脚を閉じるようにして政宗の身体を挟んで、上に座れという意図を伝える。
「ん」
すっかり従順な状態になっていた政宗は、小十郎の太腿を跨ぐようにして座った。
見計らったように少し手を開いてやれば、嬉しそうに胸に飛び込んでくる。
いつもの事ながら、政宗の可愛さに眩暈がしそうになった。