食卓テーブルいっぱいにのせられた豪華な料理は、ホテルのコース料理と錯覚する程本格的である。
「わりぃ・・・作りすぎちまった」
毎日のように手料理に感動していた小十郎だが、今や言葉すら失っていた。
「・・・本当に大したもんだ・・・」
やっと言った感想だった。
もともと料理のうまい政宗だが、確実にレベルアップしている。
「この前の本で見たやつとかなんだけどよ、実際作ってみたら豪華すぎちまった」
確かフランス料理の本などを見ている姿を目撃した気がした。
カレーやオムライスと言った料理名がすぐわかるような品はなく、外食で出てきたならば、長ったらしい名前にサブタイトルまでついていそうな、こじゃれた料理だ。
「いただきます」
恭しく拝むように手を合わせて、すぐに美味い!と政宗を見やると、一連の様子をずっと見ていたようで、屈託ない笑顔になった。
それを合図にいつも以上に和やかな食事が始まった。
「小十郎、あのよ、耳の事なんだけどよ」
「ああ」
突然気にしていた事を言われて心臓がドキリと跳ねた。
政宗はというと、一通りの品を食べ終えて落ち着いた様子でスープを口に運んでいる。
「なんか、この家の中では出しっぱなしでいいんだって思ったら、ラクすぎてついつい出しっぱなしにしてただけっていうか」
「え・・・?」
「確かにお前と居る時は引っ込めるの難しい時が多いけど、今日一人で居る時に久々にしまってみたら、割と調子良くなってた」
「本当か・・・!」
ずっと気に病んでいた事もあり、余裕なく身を乗り出してしまった。
「・・・くっ・・・、そういう顔すんなよ、可愛くなっちまうだろ」
何を思ったか、小十郎の後ろに撫で付けた前髪をなでなで、と撫でてくる。
「・・・お前な・・・」
可愛い奴に可愛いなどと言われたらどう反応していいかわからないし、そもそも可愛いなど生まれて初めて言われた言葉だ。
「休み明けはガッコ行ってみる。もともと私服校だから、いざとなったら帽子被ってけばいいだろ」
「そうか・・・本当に良かったな」
学校に行ける。
つまり、政宗が他の人間と同じような生活を再び送れるということ。
これ以上ないくらい嬉しかった。
そりゃあ、可愛い恋人を自分だけの庭に囲っておくことができるのは魅力的だ。
けれどそれでは不自由な思いをさせるし、大切だからこそ自由にのびのびと暮らしてもらいたいと願うもの。
「良かった・・・」
もう一度言うと、手をのばして政宗の頬に触れた。
くすぐったそうにしながら、挟むように手に手を添えてきて、また歯を覗かせて笑う。
小十郎からしたら、これ程可愛い生き物を知らない。
「そうだ」
思考が完全にふやけていた小十郎だが、ふと己の鞄の膨らみが視界に入って思い出した。
散々悩んだ挙句にようやく決めた土産である。
鞄からがさがさと袋を取り出して、手渡した。
「?」
「これ、土産だ」
「!・・・俺に・・・?」
信じられない事が起きたかのように、政宗は隻眼を見開いて頬をほんのり紅潮させた。
落ち着きなくシールを破って中身を覗くように確認する姿は、クリスマスの朝の子供のようである。
「Oh・・・」
口を開けたまま、ソレを覗いてみたり、高く掲げたり。
その姿に、小十郎まで落ち着きなくなってしまう。
「Coolじゃねえか、小十郎・・・!」