目をキラキラ輝かせた政宗を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
個人の趣味が左右されるような品を一方的にプレゼントするのは初めてで、気に入ってもらえるかかなり不安だったのである。
そのプレゼント―――政宗が大事そうに握るソレは、帽子だった。
ダークグレーに濃紺のポイントがついた帽子。
今風でもあるが、流行にとらわれずに使えそうでもある。
「この店・・・」
帽子の裏についていたブランドタグに気がついて、政宗が驚いた。
「あ、ああ・・・お前の服で何個かそのマークを見た気がしてな。偶然、駅のデパートで見つけたから店に入ってみたんだが」
偶然、というのは本当である。
食料品売り場で落胆した後、エスカレーターで上の階にのぼっている途中に、“NEW OPEN”の文字とともに、そのブランドロゴをみつけたのだ。
「Thanks、小十郎っ」
更に顔を綻ばせて、リビングの端にある姿見に向かって行く。
どうやら、そのブランドはお気に入りだったようだ。
土産を渡した事でご馳走様の挨拶がなあなあになってしまったが、小十郎は改めて手を合わせて「御馳走様」をした。
「おう」
その声が聞こえていたようで、やけにご機嫌な返事を返される。
簡単に食器を纏めて流し台に置いてから、政宗の元に行くと、目深に被ってみたり斜めにしてみたりと、まだ鏡とにらめっこしていた。
「どうだ?似合うか?」
口元が少し弓なりになっているが、すました顔で振り返ってくる。
「ああ。よく似合ってる」
「へへっこれなら、あのベストも合うし、この前のシャツも合うし、早速被れそうだぜ」
頭の中で、手持ちの服を思い浮かべてはファッションショーをしていたのか、次の服装の計画まで立て始めた。
小十郎はというと、そこまで洋服に拘るタイプではない。
色々探し歩くのは面倒なので、そこそこ合っているなと思っている店にいつも行くような感じで、選んでいる服も至ってシンプルなものだ。
「お前、自分と違う系統でもsenseいいんだな」
「ああ・・・これは・・・」
少し罰の悪そうな顔をしてしまう。
出来るならば、あまり深く追求してほしくない点だったのだ。
「? 誰かに選んでもらったのか?」
「う・・・まあ、そうだな」
目を泳がせる小十郎に、政宗が少し疑いの目を向けてくる。
「まさか、俺に言えないような仲の奴とか、元カノとかか?」
「ち、違う。店員だ!」
ギラリと目つきが変わったので慌てて否定した。
「店員?」
「ああ。俺は自分の服もろくに拘ってないくらいだからな。てめぇ一人じゃ選べなかった」
「? 小十郎は自分に似合う服、よくわかってると思うぜ?」
律儀にフォローをいれつつも、しばし訝しげな顔をみせていたが、
「まー別に店員に選んでもらったとしても別にいいけどよ?」
と、ニカリと笑われた。
妙な誤解をされなかった事にほっとした。
かなり時間をかけて店員に手伝ってもらって決めたので、自分が選んだ、と胸を張って言うのは気が引けたのだ。
「最終的に決めたのは俺だが、店員に候補を抽出してもらってだな・・・」
「All right、わかったって!」
ちゅ、と頬傷辺りにキスされた。
「Thank you・・・」
さすがに小十郎も照れくさくなってくる。
こういう贈り物も初めてなのに、こんなに喜んでくれるなんて思っていなかったのだ。
癖になりそうだ、とコッソリ思う。
「けど・・・今日はなんの日でもないのにPresent貰っちまっていいのか?」
ふと気付いたように政宗が小首を傾げた。
「それを言うなら、お前だってなんの日でもないのに御馳走作ってくれただろう」
「そ、それは。お前とぎこちないの嫌だったから」
そこまで言って、しまった、という顔をしている。
結局二人して考えていた事は同じで、キチンと仲直りがしたかったのだ。
「ぎこちなくさせて悪かったな。もう、不安にさせるような事はしない」
「・・・おう・・・くだらねぇ事気に病むんじゃねえぞ」
部屋着にヨソ行き帽子というチグハグな格好のままで、年下に諭すかのように話す政宗が可愛い。
「お前も、俺の気持ちを信じてくれよ?」
「え・・・」
少しでもたくさん伝わるようにと、政宗の帽子をとりあげて、額をコツンとつけた。
「愛してる」
「・・・!」
今度は拳は飛んでこなかった。
けれど、余りにも勢いよく胸に飛び込んでくるので一瞬息が止まる。
「反則だろ、オマエ・・・」
肩に顔を埋め、くぐもった声で呟いてきた。
いつもいつも反則級の可愛さを仕向けてくる政宗に、少しでも似た気持ちを味わわせてやる事ができたのかと、してやったり感を覚える。
もがもがと、なにかに悶えるように首を振っている政宗をそっと剥がすと、唇を寄せていく。
「ちょ、調子のんなっ」
悪態をつくが抵抗する力は弱く、なんなく距離をつめて触れる寸前。
チャララン♪
と
絶妙のタイミングで風呂の湯が溜まった事を知らせる音楽が陽気に流れ出した。
政宗が、お湯張りのタイマーをセットしておいたのだろう。
「・・・」
「・・・」
お互い反射的に動きを止めてしまい、その隙にするりと腕の中から逃げられてしまった。