デパートの地下は、主婦やお年寄りで賑わっていた。
お昼時という事もあって、フロア内に点在する飲食スペースは席待ちの列ができ、実演販売のローストビーフやたこ焼きの店は長蛇の列である。
「・・・・・・」
小十郎は、疎外感というか敵地に遠征してきたかのような、“アウェイな感じ”をひしひしと感じていた。
学校を飛び出したものの、政宗にどう話をしていいのか混乱していたので、とりあえず頭を整理する時間を稼ごうと、土産でも選ぶ事にしたのだ。
高校の最寄駅はそれなりに賑わっていてるので、駅と直結している百貨店やらデパートは食料品売り場が充実している。
―――あいつの好物は・・・
そう考えてピタリと足を止めた。
好きな食べ物の話をした事がない。
知り合ってからひと月も経っていないのだから知らない事が多いとはいえ、少し情けなくなる。
以前から思っている事だが、ずっと前から政宗を知っていたような、待っていたような錯覚をしていたせいか、彼の事は何でも知っているような気になってしまっていたのだ。
―――知ってる事なんて、ほんの僅かだってのにな・・・。
少し寂しく思うが、今は感傷にふけっている場合ではない。
自分のせいかもしれない涙の原因を聞くのは勇気がいるが、このままにしておくわけにはいかないのだ。
何を買えばいいかいい加減決めないと、早引けして帰ってきた意味がない時間になってしまう。
政宗が今まで作ってくれた料理の中に嫌いな食べ物は恐らくないであろうが、その中のメニューをあえて買う気にはなれない。
待てよ。と
再び足を止める。
政宗が毎日のように手料理を作ってくれているというのに、出来合いの惣菜をいきなり買って帰るのはまずいだろうと気がついた。
前もって夕飯の下ごしらえをしてしまっているかもしれないし、手料理に飽きたなどと誤解されたら泥沼である。
「ちっ」
何を土産にしたらいいのか、ますます分からなくなってしまった。
政宗を喜ばせたいというのに。