「美味かった。ごちそーさん」


ふう、と箸をおくと、目の前の政宗は焦点が定まらずにぼんやりとしていた。

瞼を重そうにして少しうつらうつらとしている。


「おい、眠いのか?」

「ん・・・ちょっと」


もしかしたら酒が弱いのかもしれない。

そんなに煽って飲んではいなかったみたいだが、心なしか頬もピンクに染まったままだ。


「全くメシだとか眠いだとか、子供みたいな奴だな」


もう親戚の弟分かなにかのように思えて頭を撫でてやる。


するとすこしだけ擦り寄るような仕草をみせて、ふにゃりと机につっぷした。


「あ、おい。ここで寝るな。風邪ひくぞ」


声が届いているのかいないのか、ふにゃあというようなねぼけ声が聞こえるも、返事らしい返事はない。


「泊まってって構わねえから、寝るならベッドいけ」


もはや熟睡の域に入っている政宗に、仕方なく後ろから脇の下に手を差し入れて立ち上がらせて、肩を貸すように部屋を移動した。


「ん・・・片倉サ・・・」

「ああ、もういいから寝ろ」


ベッドの上に横たえようとすると、いやいやをするように腰にしがみついて離れなくなった。


「おい、こら・・・おまえ・・・」


「まさ・・・む、ね」


お前呼ばわりが嫌だったのか、そう呼べ、と言いたいのか、じっと見上げてくる。


「政宗、手を離せ」

「ん・・・」


納得したのか今度は素直に手を離した。


なんだか本当に可愛いやつだ。


「こじゅう、ろう」


「あ?」


確かに名前は名乗ったが、さっきまでは「片倉サン」と呼ばれていたから、面食らってしまう。


名前同士で呼ぶと主張でもしているのか。


「・・・おやすみ」


まあ、酔っ払いの言葉をいちいち真に受けていたら後で恥をかきそうだ。

自分はソファで横になるか、と立ち去ろうとすると。


再度ぐい、と引っ張るものがあった。


部屋着のポロシャツの裾を引っ張られて、振り向けば、潤んだ上目遣いとかち合う。


「kiss」


「は、い?」

「kiss、しろ」


いよいよ頭が痛くなってきた。


完全に酔っ払い。

しかも絡みグセときた。


はああと溜息をつく。


「そういうのは、彼女とか、女にやってもらえ」


「・・・こじゅうろうがいい」


まっすぐに見つめられて、凶悪な一言が突きつけられた。


目の前の青年は、当然男だというのに。

こんなに可愛くて料理も上手で健気で、でもちょっと生意気でとても放っておけない。


正直好みだ。どストライクだ。


―――俺も酔っぱらっちまったか?


訴えてくる瞳に吸い込まれるよう。

身体が無意識に動いて、小十郎は政宗の顎に手をかけると、尖らせるように主張している形の良い唇を啄ばんだ。


やばい、すごくいいかもしれない。

暗示にかかったかのように、柔らかな唇に何度もキスを降らせた。



「は・・・こじゅう、ろう」

「・・・っ」


政宗から名前を呼ばれると、どうも変になる。

ひどく懐かしいような、気持ち。

優しくて暖かくて。


不思議な確信のようなものを感じるのだ。

出会うべくして出会ったのではないかと。



気がつけば甘い唇に夢中になり、酔っ払い相手に冗談でキスをした、などとはとても言えないくらいに口付けは深いものとなっていた。


「あ・・・やば、い・・・待、こじゅう・・・っ!」


そんな声を出されたら理性が吹き飛んじまう・・・と、心の中で嘆いて、名残惜しくも最後にちゅう、と吸い上げる。


「む、ん・・・、あ・・・っっ」


すると、目の前の政宗が身震いをしたかと思うと、ざわざわ・・・っと髪の毛が膨らんだ。


すぐに状況がつかめず、ぽかんと見詰めていると、頭にぴんとした毛がふたつ、盛り上がっている。

毛、ではない。

正確には耳。猫のような耳だった。

そしてベッドに座りこんでいる背後には、尻の辺りから長い尾が覗いている。


「・・・っ」


あまりの衝撃に声がでなかった。

それらが作り物でない事は一目瞭然だ。


意志をもったようにリアルに蠢いているものは、まさしく生きた動物のもの。


「Shit・・・でてきちまった・・・」


政宗は、強がった口調とは裏腹に顔色は青く、先程まで小十郎の胸に縋りついていた手はぱたりと落ちていた。




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