湯浴みを終えて政宗の部屋へ向かいながら、小十郎は呆れていた。
先日、気持ちを通じ合わせてから何度も身体を繋げてきたが、政宗の“欲しがり”は少し度を越えている。
まだ若いし、毎日のように性欲が沸くのもわからなくはないが、あのようにがむしゃらに求める様子を見ていると、些か複雑な気分になる。
おなごのような女々しい気持ちとまでは言わないが、世に言う、“身体目当てなの?!”というやつだ。
「政宗様」
「おう。入れ」
声を確認してから部屋の中に入ると、いつものようにすっかり肌蹴た身なりですぐに小十郎の身体にしがみついてきた。
「政宗様・・・!」
「早く、しろよ」
苛立った声に気付き、両頬を挟むようにして政宗の顔をあげさせる。
「・・・っ」
「何を苛立っているのですか?」
「・・・別に苛立ってねぇ」
するとそのまま唇を押し付けて舌を入れてきた。
「ま、さむねさ、」
「ん・・・は、」
小十郎は混乱しつつも、口付けを受けながら頭と背を優しく撫でた。
それは快楽を生むものではなくて、穏やかな心地になるもの。
「Shit!また、子供扱いかよ・・・」
「おや、こうされるのはお嫌いでしたか?」
「そういう事言ってんじゃねぇ。今する必要あるか?」
噛みしめている唇に指で触れて、そっと優しく触れ合わせるだけの口付けをした。
「ん」
「まだ時間はありますから。まずは話しでもしませんか?」
「・・・」
少し落ち着いてきたのか、腕の中の政宗は力を弱めた。
「どうして、怒ってらっしゃるんですか?」
縁側で政宗の背を凭れ掛からせるようにして座り、二人で月を見上げていた。
「・・・お前が最近、梵天丸の話ばかりしてるの、知らないと思ってんのか?」
「・・・は?」
梵天丸とは、政宗の幼少の頃の名で、当然政宗本人の事である。
「何か気に障りましたか?」
「・・・梵天梵天って、親馬鹿のように話してるらしいな」
「そんな。親などと恐れ多い。ですが、慕う気持ちがあるのは否定できませんが」
小十郎は梵天丸の姿を思い出して、少しだけ笑んだ。
今より少し瞳が大きく、あどけなくて。
笑いたいのを我慢している時の引き結んだ唇が可愛らしく。
そこいらの少女達よりよっぽど愛らしかった。
思いを馳せていると、不意に腹へ肘鉄を食らわされて、ごほりとむせた。
「何を・・・」
「なにニヤニヤしてんだ。・・・そんなに梵天丸がいいのかよ」
不機嫌な理由に思い当たって、顔を覗きこんだ。
「・・・まさか、ご自身に・・・嫉妬されて」
「そんなんじゃ・・・ねえ」
「はあ」
ならば何故不機嫌なのかわからない。
「・・・お前は、梵天丸だった頃の方がいいのかよ」
「・・・どちらがいいもなにもあるわけないでしょう。同じお方だというのに」
「梵天の話しばかりしていりゃ、誰だってそう思うだろうが」
色々反論したいところもあったが、やはり小十郎が今の自分ではなく、小さい頃の話しばかりしている事が気に食わないというのが真相のようだ。
「同じだけ慕っているに決まっているじゃないですか。政宗様のお小さい頃を知っている者はそう多くありません。それは小十郎にとっての自慢話なんですよ」
「自慢・・・?」
「ええ。あの頃から政宗様の一番近くに居たのはこの小十郎なのだと、皆に知らしめたくなるんです」
「なんだ、それ」
政宗は、不思議そうな顔をして見上げてきた。
「独占欲、というやつです」
「・・・」
普段ならば恐れ多くて口にするはずもない言葉だが、今なら伝えても良い気がした。
「Oh・・・そういうやつだったのかよ・・・」
「納得いただけましたか?」
「・・・初めからそう言えってんだ」
耳を赤くして膨れた様子は先程の不機嫌な顔とは異なり、はにかんでいるようで可愛らしいとすら思えた。
小十郎にとっては小さかろうが大きかろうが、政宗を可愛いと認識してしまうのである。
そしてそれは、周知の事実でもあった。
要は政宗こそが一番鈍いのである。
「では政宗様は、随分前からそんな事を気にされていたのですか」
「・・・」
がむしゃらに身体を繋げようとするのは、不安からくるものだったようだ。
つまりはそれだけ愛されている、という事になる。
自然と顔が笑ってしまう小十郎に、もう一度反対側から肘鉄がとんできた。
見た目より力のある政宗の肘鉄は一瞬息が止まる程だったが、それでも今の幸せ気分の小十郎からしたら、なんてことはない痛みだった。
腕の中でするりと向きを変えた政宗は、悪夢を見てうなされたあの晩と同じように膝に乗り上げて、ぎゅうと小十郎の身体にしがみついてきた。
「・・・愛しています、政宗様」
「・・・・・・今、言うな」
「何故です」
向かい合っている事で、身体を離せば顔を見る事は簡単にできる。
だが頑なに離れようとせず、つまり顔を見せようとしないのだ。
「政宗様、お顔をみせてください」
嫌がる政宗をどうにか引き剥がしてその両の手を掴むと、珍しく困ったような顔をして唇を噛んでいた。
照れているのかうっすらと頬が赤くなっていて、見ている方まで照れくさくなるような表情である。
やはり昔も今も変わらず愛おしいと思い、小十郎は額に口付けた。
「こじゅ、俺・・・も、う」
「?」
すると、完全に油断していた小十郎の下腹に、ひんやりとした手が滑り込んできた。
「ちょ、政宗様・・・っ」
器用に褌をずらすと半勃ちの小十郎のものをとりだしてしまう。
そして、自分の着物の前を肌蹴させると、何も纏っていない政宗の下腹が顕わになった。
「・・・政宗様・・・何故下になにもつけていらっしゃらない」
「当然だろ、そのつもりで呼んでるんだ」
「何故、今なんですか?!」
「What?」
つい先刻まで、頬を染めて困り顔をしていたのは、欲情して困ってしまったという事だったのだろうか。
「お前がさっき、あんなtimingで甘い事言うからじゃねぇか」
「・・・何故そうなるのですか。久し振りに・・・なんと言いますか、身体ではなく、心で愛情を伝え合うといいますか、そういった流れではございませんでしたか」
「Ha!お前って意外と女のような考え持ってるよな」
「・・・・・・政宗様は本当に男らしくいらっしゃいますな」
皮肉を込めて溜息交じりに伝えると、にかりと眩しい笑顔を零す。
「Love gaugeがMAXの時にあんな事言われたら、ここに火が点かねぇ男はいねえだろ?」
そう言って、二人ともの欲望をあわせるように添えると、上下に動かし始めた。
呆れつつも、結局小十郎のものも大きくそそり立っていて、説得力は皆無である。
「敵いませんな」
らぶげえじ、という言葉の意味はなんとなく伝わったので、政宗に好きに動かされたまま口付けに応じた。