は、と気がつくと少しうたた寝をしてしまっていたようだ。


「・・・っ」


慌てて小十郎の部屋を見ると、灯りが消えていた。


どうやら気付かれないまま、小十郎は床についたようだ。


―――あぶねぇあぶねぇ


途端にしてやったりな顔をして、そろりそろりと部屋の襖に近づく。



ひゅっ


「誰だ」


襖に手をかけたところで、音もなく襖が開き、耳のすぐ横に何かが飛んできた。


「・・・っ」


ひやりと背中に寒気が走る。

声がでなかった。


ただ己のごくり、と息を呑んだ音がしたのみ。


「!」


一瞬の間ののち、驚いて飛び出してきたのは小十郎の方だった。


「梵天丸様?!」

「・・・あ、ああ」


ようやく返事をした。


「申し訳ありませぬ・・・!まさか梵天丸様とは思わずに」

「ああ、いいんだ。小十郎は悪くねぇ」

「ですが・・・っ」


危うく首を斬り落とされるところだったかと思うとぞっとしたが、既に下ろされた刀をみると、鞘に収まったままだった。

その視線に気がついたのか、小十郎は「殺気は感じませんでしたので」と短く答える。


「すげえな、小十郎は」


そっと忍び込めば気付かれないと思っていたのに、と少し悔しくなる。


「いえ。 まだまだでございます」

「?」

「梵天丸様の気配だ。と、このような無礼を働く前に気付かなければならないところを」


確かにこの男なら平然とやりかねない、と思った。

やはり長旅の疲れが溜まっているのだろう。


「ところで梵天丸様」

「ん」

「このような夜更けに如何なさいましたか」


「あ・・・あー」


は、と自分の目的を思い出して、返答につまる。


正直に話せば、小言決定だ。

しかも明日朝一番から。


「うー・・・それが」


見つかった時の言い訳など用意していなかった。

すると、はっきり答えない様子になにか勘違いをしてくれたのか、悟ったような顔で、

ふう、と溜息をつかれた。


「厠ですか?それとも恐ろしい夢でもみられたのですか?」

「・・・は?」


「まだまだ、小十郎にとっては可愛らしい梵天丸様でいらっしゃる」

「・・・はあ??」


皆まで言わずとも理解致しますぞとでも言いたげに頷いて、室内に招かれる。


どうやら、怖い夢を見て添い寝をねだりに来たと思われたようだ。

それを否定したくても、他の理由を思いつかないが為に口を開けない。


うんうんと頭を抱えていると、勘違いしたままの小十郎まで思案顔をはじめた。


「このように遅い刻限ともなれば、一刻も早く眠らなければ明日お辛いでしょう。本来ならば、あまり良い事ではありませんが・・・」

「え?」

「今宵は眠れるまでお側におりましょう」


やはり今日の小十郎は優しい。

離れていて寂しい思いをしていた、というのは本当なのかもしれない。


「おう・・・!」


勘違いされた内容があまりに情けなくて自尊心がつつかれるが、もうこの際それでもいい。


共に眠れば寝顔が見れる。

願ってもいない好機だ。


梵天の部屋へ行こうとした小十郎に、ここがいい、と駄々をこねた。


自室の方が、小十郎が安心して眠りやすいだろう。


少し学習したのだ。

優しい時の小十郎は、素直に甘えるとなんだかんだ言う事を聞いてくれる。


「小十郎の匂いがして安心するから、ここがいい」


と甘えた声をだしてみたら、すぐに陥落した。


「仕方ありませんなあ」


―――ちょろい、ちょろすぎる、小十郎っ


梵天丸は心の中でニタリと笑った。




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