昼間はあれから「少しだけ」の約束を守らされ、自室まで送り届けられてしまった。


昼寝のせいで遅くにはじまった勉学は、これまた昼寝のせいか頭が冴えずに捗らないまま夜が更けてしまった。


もぞもぞ、と布団の中で身じろぐ。


「眠くねぇ」


昼寝はいろいろな弊害を招いてしまったようで、普段ならとうに寝入っている刻限になっても一向に眠たくならなかった。


暗闇に慣れてしまった瞳で天井を見詰めていると、少し前まではこれが日常だった事を思い出す。

夜になってもなかなか寝付けずに、空が白んでしまう事もよくあった。


小十郎がきて。

部屋に閉じこもっていたのを無理矢理毎日連れ出されて。


はじめこそ迷惑でしかなくて反発したものの、いつの間にか小十郎に連れ出される「外」というものが、今まで留まっていた暗い処に比べて、あまりに鮮やかで刺激にあふれているかを教えられた。


剣の稽古をつけてもらったり、泥だらけになるまで遊んでもらったり。

独り塞ぎこんでいた気持ちをどこかに吹き飛ばしてくれた。


そう、その頃から、夜はじっと耐える時間ではなくなったのだ。


「今では笑いながら寝ちまうくらいだからな」


と暖かい気持ちで呟く。


人は幸せだと、寝ながらでも笑うようになるのだろうか。

ふと眠気のこない頭で考えてみる。


「小十郎は・・・?」


普段からよく笑う方ではないけれど、自分と同じように幸せを感じているのならば、或いは笑った寝顔が見れるんじゃないか?


一度浮かんでしまった考えは、確かめずにはいられないところまできてしまった。


「よし」


思い立ったら行動あるのみ!

小十郎の影響ですっかり活動的になった梵天は、するりと部屋から抜け出した。


昼とは違う薄暗く寝静まった廊下に、不安で胸がざわざわする。

だが好奇心の方が勝っているのだから、あまり気にならなかった。


なにせ小十郎の寝顔など見た事がない。

それだけでも楽しみだというのに、絶対に笑顔で寝ているともはや疑っていないのだから、自然に顔が笑ってしまう。


傅役という立場柄、部屋は近く、他の者に見つかる事なく辿りつけた。


「・・・小十郎、まだ起きてんのか」


部屋からは明かりが漏れていた。

僅かに開いた隙間から中を覗き込むと、昼間に見た時と同じ姿勢で文机に向かっている

横顔が見えた。


仕事が終わった、というのは嘘だったのだろう。

恐らくは、梵天が仕事の邪魔をしない為に部屋へおしかけてきた事も始めから承知で、気を遣わせないようにと偽ったのだと気がついた。


子供扱いしやがって・・・と頭の中で呟く。


もう随分遅い時刻だ。

待っていればもう眠るかもしれない。


少しこの場で待つ事にして、そうっと腰をおろした。


気配に気付かれていない事にホッとするが、それだけ疲れているのだろうと思うと、早く寝ろと言いたくなる。


―――ふわああぁ


噛みころすような欠伸を何度したか、うつらうつらと瞼が重くなってきた。

先程までの元気はどこへやら、すぐに眠気が襲ってくる。


―――やべぇ・・・もう少、し・・・ほん、とアイツの側だと・・・ねみ・・・ぃ




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