「じゃあなにか、お前は。俺に好きな女ができて、且ついろんな奴に節操なく手当たり次第盛ってるっていう想像をしたってのか?」

「・・・そこまでは申しておりませんが・・・・・・申し訳ありませぬ」


小十郎は、多少なりとも勘違いをしていたらしいと判ったが、まだ事の全容を把握したわけではなかった。


「ですが、ならば何故急に政宗様の態度が変わられたのか、伺っても宜しいですか」


今まで色恋には無縁だと思っていたのに、小十郎からしたら急に色気づいたようにしか思えなかった。


「・・・!だから・・・それは」

「・・・?」

「さっきも言った通りだ!夢で口付けたんだと勘違いしてたが、本当にお前としてみたくなったんだよ。
 そしたらその日に口付ける機会に恵まれたじゃねぇか。男なら調子にのるだろうが」

「・・・ですからそれは手当てを・・・」

「そこは聞き流せよ!しつこい奴だな」

「・・・はあ」

「・・・お前の鈍感さが恨めしいぜ・・・」


そして、政宗が観念したようにぽつぽつと語り始めた。


一人で月を眺めていると、温かい言葉をかけに小十郎がやってくるようになって、それが嬉しくてわざと戸を開ける癖がついてしまったという事。

いつしか、月を見る為ではなく小十郎がくるのを待っていたという事。


そこまで言われて、さすがに小十郎も政宗の心に触れた気がした。


「なあ、だから、突然とかじゃないんだぜ?気付いたのは最近だけど、多分俺はその頃から・・・」

「・・・政宗様」


そこまで話し終えると、小十郎の身体にぴたりとしがみついてくる。


「お前は意識した事ねぇかもしれねえけど・・・」

「ええ、そのように想っていてくださるとは露ほども・・・身に余る幸せです」

「こじゅうろ・・・」


小十郎も、ようやく政宗の背に腕を回して、優しくさするようにして抱きしめた。


「ですが・・・」

「・・・?」

「政宗様の悪い癖です。そのような告白、小十郎でなければ勘違いしてしまいます」

「Ha・・・?」


政宗の顔がビシリと凍りついた。


「なあ、小十郎じゃなければ、いい加減もう信じてくれてると思うぜ・・・」

「え?」


はああ、と盛大な溜息をつかれる。


「はっきり言わねぇとわからないか?・・・俺はお前が好きだ。愛してる」

「有難うございます。小十郎もお慕いしております」


小十郎は驚いた表情をした後、珍しく、柔らかくて穏やかな笑みをこぼした。


「・・・っなんか、そうじゃねぇんだよ・・・っ」


滅多に見られない表情に狼狽えて、政宗は顔を赤くしている。


「何が違うのですか?」


これ以上ないくらいの幸せを感じて満たされていた小十郎だが、政宗はどこか不満気だった。


「俺はお前と交わりてぇんだよ!」

「・・・政宗様・・・!」

「すき、だ・・・小十郎」


少し掠れた声と共に、深く口付けられた。


「政宗、様・・・」


口付けの合間に向けられる瞳は熱く潤んでいて、政宗の欲望を顕著に伝えてくる。


まさか、政宗が身体を重ねる事まで望んでいるとは思っていなかったが、実は小十郎の愛情も政宗のそれとなんら変わりはない。

むしろ恋愛感情などというくくりでは生易しいと思えるくらい、深く愛していたのだ。


立場上という建前も勿論あるが、大切すぎて、欲望に任せて触れるなど恐れ多い事を今まで考えなかっただけである。

その辺りの精神力はさすがのもので、今まで十年近く傍で仕えていても気持ちを匂わせる事は一度もなかった。


心の奥底に錠前をして仕舞いこんでいたようなものだ。


だが、それは政宗の気持ちを知る前の話。

同じような気持ちを自分に向けてくれているという事実を知ってしまってからでは制御も難しくなる。


先の口付けにうっとりとした政宗が、頬傷をなぞるように舐めてくる。

さすがに小十郎も眠らせていた欲望の色が隠しきれなくなり、熱のこもった瞳で見やると、ようやく満足した顔で政宗が笑った。


「coolだぜ、小十郎」

「奥州の竜が斯様な艶やかなお顔をされるとは、今まで存じませんでしたぞ」

「・・・竜なんつってもただの人の子だ。がっかりしたか?」

「政宗様は天をかける竜ですよ」


腕の中の政宗の髪を優しく梳きながら額に口付けをおとした。

すると、それをくすぐったそうに受けながら政宗が呟いた。


「・・・今日は、竜じゃなくていい」

「?」

「今日はお前のものに、しろ」


小十郎が躊躇していると、着物の前から手を差し入れてくる。

少し冷たい手が胸元に入り込むと、ぞくりとした。


「政宗様・・・どう、なさるおつもりで」


言ってもきかないだろう政宗に、諦めたように小十郎は問いかけた。


本来ならば政宗が体を求める側になるのが普通だろうが、小十郎は十も上の男。

挿入したいのかどうかという事を問うての質問だった。


「さすがに俺の手には負えねぇな」

「そうでしょう」


にかりと笑う政宗に、ややほっとして、乗り上げた膝の上から降りるように促す。


「だから、お前がどうにかしろ」

「・・・は・・・?!」


とんでもない言葉に、柄にもなく間の抜けた声を出してしまった。


「政宗様、意味をわかっておいでか?」

「当たり前だろう?俺をいくつだと思ってやがるんだ?」

「ですが、その・・・今までそういった経験は」

「男に挿れられた経験なんてあるわけねぇだろ」

「・・・やはり」


強引に迫る政宗に引け腰になりながらも、その言葉にはほっとした。


何をしようと政宗の自由だが、男に挿入された経験がないと聞いて嬉しく思う自分がいる。


「お前にとっておいてやったんだぜ?」

「・・・・・・あまり煽らんでください。それに初めてでは尚更挿入など・・・」


すると、戸棚から小さな壺をとってきた政宗が妖しく笑う。


「ばぁか。この日を待ってたんだぜ?それなりに準備だってしたさ」

「・・・まさか」

「お前を想ってするくらい、許してくれよ」


小十郎は胸がきゅう、と締め付けられるのと同時に、腹にも熱が篭るのを感じた。


「政宗様・・・小十郎も男です。そろそろ抑えもききませんよ?」

「そのくらい煽ってやらねぇと、拒みかねないからな」


その言葉に、ぐ、と理性を保とうとして眉間に皺を寄せた。


「言ってるそばから我慢しようとすんな」


ほら、と腕を引かれて、着物の合わせ目から、政宗の胸元に触れさせられた。


滑らかな肌は吸い付くような感触で、思わず確かめるようにして手を滑らせてしまう。




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