「前田ああぁああ!!!」


小十郎の威勢の良い叫びが屋敷中に響いた。


間もなく連行されてきた慶次。

再び話し合いの場がもたれた。


「どういう事だか説明しろ。政宗様の耳がまだおちねぇぞ?!」

「あれれ?まだおちないかい?」

「お前の病のせいで政宗様の御身になにかあったら、ラクには死なせねぇぞ?」


完全に目が据わっている小十郎に、政宗と成実はとりあえず口出しはしないでいた。


「あー大丈夫だよ、治療方法ならわかってるから」

「治療方法だと?」

「言わなかったっけ?病の間に同じ病にかかってる人間と交わったりしてると、なかなか治らないって」


「「は?」」


「閨事とか口付けとかしなければちょうど七日で治るみたいなんだけどね」


共にいるだけでは感染しない病では広がりようもなく、結局病になったのは伊達軍で政宗と小十郎のみ。


病中に交わっているとしたら自分達であると言っているようなもので、二人共二の句が告げられなかった。



そしてようやく二人の耳がおちた頃、事の発端である慶次はようやく奥州を発つ事になった。


「いやー長い間世話になったねえ」

「もう変な厄介ごと持ってくるんじゃねえぞ」


政宗の所に挨拶にやってきた慶次に、皮肉たっぷりに言い放つ。


「独眼竜ーヘソ曲げないでくれよ、結果的には良かったんじゃないかい?前より更に仲も良くなったみたいだし」

「余計な詮索してんじゃねぇよ」


「・・・・・・」

小十郎も、政宗の手前口は挟まずにいたが、相変わらずじっと視線を投げていた。


「あの病の怖いところはね、好きな子と想いが通じていると中々治らないところなんだよね。それでずっと耳つきのまま過ごして色ぼけ扱いされちゃったりね」


話を蒸し返されて、ち、と政宗が舌打ちをしてそっぽを向く。


「まあ、俺は長引く事もなく、すぐ治っちまったけどねぇ」


と、少し寂しげな声音でさりげなく慶次がこぼした。


「じゃあ、お二人さんとも元気でな!あ、成実も。楽しかったぜ」


歌うような口調で、来た時と同じように派手な出で立ちで慶次は帰っていった。



「全く騒々しい野郎だぜ」

「全くですな」


政宗と小十郎は同時に溜息をついた。


「まあ、よかったじゃないの、二人共!前田サンが言ってたように、前より距離が縮まったようでさ!」


成実までからかうような事を言ってくるので、呆れた目を向ける。


「・・・病の間は、みんな甘ったれた考えになっちまうんだろ。今はもう前と変わらねぇよ」


よっぽど慶次に二人の夜の情事がばれた事が恥ずかしかったらしく、政宗は釈明するように言った。


「政宗様、申し訳ありませぬ。病の間はみっともない姿をお見せしました」


そしてすかさず詫びる小十郎。


だがその二人を見て、成実は吹き出していた。


「なんだよ。何かおかしい事があるか?」


政宗が睨んでも、なかなか笑いは止まらない。


「あ、はは、いや、それがね、前田サンが言ってたんだけどさ、この病で気持ちに変化が起きるっていうのは嘘らしいよ?」


「「嘘?」」


二人揃ってぎょっとした顔で成実を見詰める。


「気持ちに変化があったって感じるのは、相手の普段と違う姿に興奮したりとか、自分の姿に対する思い込みからくるんだってよ?」


ピリ、と静電気を感じて、成実がはっと我に返った。


羞恥から政宗は身体にバリバリと雷を発生させ、まさに放たれる寸前だったからだ。


「わーっ!!ちょっと待って!落ち着いて!!俺が悪かった!」


次の瞬間、成実に向けて蒼い稲妻が走る。

全速力で逃げていく成実の着物の裾が、雷で焼け焦げたのが見えたが、すぐにそのまま屋敷内へ逃げていったので姿はみえなくなった。


政宗の頭の中は混乱してぐるぐるとしていた。


病の間は、本当に甘えん坊の猫になったかのように小十郎に纏わりついてばかりいて、泣き顔だって見せた気がするし、情事の時にいつもよりも甘ったるい声で小十郎を求めた気もする。


病のせいだと思い込んでいた時でも、反芻しては恥ずかしい思いをしていたというのに、それがまさか素面だったとは。


「政宗様・・・」


雷の余韻で、未だピリピリと静電気の音がする政宗に、そっと小十郎の手が触れてきた。


同じ雷の属性を纏う小十郎だからか、触れてもバチバチと鳴る事もなくて、それに気付いて少し目を丸くした。


まるで自分の中に本当の意味で触れてこられるのは小十郎だけ、という事実を表しているかのようである。


「そろそろ、稽古に戻りましょう」


何事もなかったように、頬をすり、と撫でられて、気持ちが落ち着いてくる。


「・・・ああ」


病のおかげで距離が縮まったというのは事実のようだ。



七つの晩の間に起きた甘い時間は戻らないけれど、忘れる事はない。

そんな不可思議な病だった。



どうせなら無理矢理にでも兎の尾を小十郎に付けさせれば良かった、という政宗の後悔を残しつつ、二人はすぐに日常に戻っていった。


互いの部屋にこっそりと尾の玩具を保管したまま。




□■戻■□


リクエスト→ほんだサマへ

非常に時間がかかってしまい申し訳ありません〜><
そのうえ、リク小説だというのに長篇とか・・・!!!
最初に気付けば良かったですっっ小説サイト初心者で浅はかゆえ申し訳ないです!!!
リクなのに長いの渡されても困りますよね(笑
けれどいまだに短篇が書けないという実力ゆえに、笑って許していただけると嬉しいです!
えーと、猫耳ネタは連載やっているくらいなので大好きです。
リクは『戦国時代でも猫耳が生えてしまうお話』でした☆
楽しいネタを頂き有難う御座いました☆
長々楽しませてもらいました(▽`*
ここまで読んでくださった皆様も有難う御座いましたー!!!