「・・・・・・?」


意識が覚醒してきた小十郎は、温かなものと触れ合っている事に気がついて意識が浮上した。


「ん・・・んん・・・」

「・・・・・・は、」

「・・・っっ???!」


相手の息遣いで完全に目が覚めて、小十郎は目を見開いた。


「ま、政宗様・・・!」


慌てて引き剥がすと、やはり自分に濃厚な口付けを喰らわせていたのは、政宗の姿をした“政宗様”だった。


「気がついたか?こじゅうろ」


ニヤリとした悪戯笑いに、どうやら“現世の小十郎”に切り替わった事は承知のうえでの行為だとわかる。


「・・・・・・こういう事は、“昔の俺”とだけしてください」

「いいじゃねぇか」


くすくすと笑いながら、最後に軽く、ちゅ、と触れ合わせられた。

さっきまでは、アイツとしてたんだよ、などと言いながら、酷く幸せそうにしている。


「小十郎、Thank youな」

「いいえ、とんでもない。他でもない、政宗と政宗様の願いです」


目の前の政宗も、恐らく意識が薄れかかっているのだろう。

実態のある身体だというのに、何故か透けていってしまうのではないかと思えるような儚い存在に思える。


別れの時が近いのだと感じた。


「俺の口から先に伝えなくて良かった」


小十郎は、そう言うと、伝えそびれていた事を政宗に告げた。


それは、あの晩。

未遂とはいえ政宗と佐助が身体を触れ合わせていた事に気が付いてしまった時のこと。


恐らくは政宗に何か考えがあってした事であろうと理解していたが、それでもどす黒い嫉妬心でいっぱいになった余裕のない小十郎の話。


本人同士が互いの気持ちを打ち明けあった後ならば、半分部外者のような自分が告げ口をしても問題ないだろう。

ちょっとの悪戯心でもあったし、それを聞けば政宗が喜ぶのではないかと思っての事だった。


すると、政宗の顔はみるみるうちに様変わりし予想以上の反応を示した。


「み、みるんじゃねえ・・・」

「・・・想いを伝え合ったなら今更な話かとも思ったんですがね」


紅く染まった頬を隠すようにして、怒ったような口調の政宗に、恋人の政宗の面影を見た気がする。


「全く、二人共鈍感ですね」

「うるせぇ・・・」


数百年の時を越えて想い続けた程の絆をもつ二人だというのに、相手が嫉妬をしていたという話を聞いただけで動揺する政宗は可愛らしかった。


「やっぱり、“政宗様”は“政宗”で、俺は“小十郎”だ」

「・・・?」


きょとんとした顔のまま見詰めてくる政宗は、意識が朦朧とし始めたようだ。


「俺も貴方に口付けたくなっちまうんで、もう、戻ってください」

「こじゅうろ・・・」


へへ、と笑った顔はもうどっちの政宗の顔かわからない。


二つの存在が、ようやく溶けて交わって。

在るべき姿に戻っていくのが感じられた。


「愛してるぜ、Honey?」




□■戻■□
ひろいねこ・AFTER