「政宗様、もう十分です。そろそろ・・・」
達してしまいそうですので、と言って頭を両手で挟み口を離させようとしたが、どこうとする気配がない。
「政宗さ、ま・・・本当に、もう、もちません・・・」
まさか自分の主の口内に欲望を放つなど考えられないと思いつつも、這い上がる快楽で埋め潰されそうになり、焦り始めた。
舌と指とで小十郎を追い込んでいた政宗は、欲望をより深く口に咥え込み指を離すと、両腕で小十郎の腰にぎゅっとしがみつき抱き寄せる。
それぞれ腰と腿に絡みつく腕の心地よい束縛に、抗えるはずもなかった。
「んん、ほほはは・・・む、ん・・・っ」
このまま、
と咥えたままで話されて、歯の感触を微かに感じて腰が震える。
更に追い詰めようと、速度を増して上下に動かされた。
「ふ・・・んっ、ん・・・」
「・・・は、・・・政宗様・・・っ」
小十郎は限界に達し箍が外れて、手を添えていた政宗の頭を欲望のままに動かす。
突然の変化に政宗の驚いた気配がするも、すぐに舌と唇で小十郎自身を擦り上げて、頭も動かされるままになっていた。
じゅぶじゅぶと、溢れ飲み込みきれない唾液か先走りかもわからないものが泡立って地面へと滴り落ちる。
「は、あ・・・、申し訳、ありません・・・ご無礼を・・・っ」
悲痛ともとれる声を絞り出して、小十郎が息をつめた。
「ん・・・っっ」
ビクリと大きく欲望が脈打ち、喉の奥に叩きつけるように欲望が放たれた。
政宗はその苦味を上手く飲み込みきれず、少し口端から溢れさせてしまう。
「は・・・、は・・・ んあ・・・」
愛撫を施しつつも興奮を覚えていたのか、政宗の表情は情事の最中に見せるようなうっとりとした顔だった。
「・・・政宗様、申し訳・・・」
「しつこい!何度謝るつもりだ?」
それでも、反省しているのであろう、なんとも複雑な表情で伏し目がちな小十郎は、同じ目線になるように屈みこんだ。
懐紙をとりだすと、白濁で汚れた政宗の唇を丁寧に拭う。
「ん」
意図を察したようで、顎を上げて小十郎に顔を向けてきた。
その姿は無防備で、それにすら己の浅ましい欲望が反応してしまいそうで、また伏し目がちになるのだった。
「お召し物は・・・」
ふと気付き、着物に泥などついていないか確認する。
「少し着崩れただけだ。地面にも触れてないし」
「それは良かった」
「・・・お前気に入ったんだろ、これ」
純粋に政宗の着ているものを心配しただけであり、やましい気持ちなどないはずなのに動揺してしまう。
「前田の風来坊に、反物いくつか貰ってな。その中にどう見ても女物が混ざっててよ」
「は・・・左様でございましたか」
その新鮮な姿に余裕をなくし暴走してしまった後だから、どことなく後ろめたい。
「・・・また着てやろうか?」
にやり、と口端を上げた主にはそんな心境がお見通しのようで、意地悪くからかってきた。
「いえ。他の者の目には映させたくありませんので」
つい、いつもは口にしないような子供じみた台詞を言うと、今度こそ屈託なく笑われた。
「OK お前の前でだけだ」
「今日は些か取り乱しましたが・・・小十郎は本来の政宗様のお姿を一番美しく感じております故」
恥ずかしい奴だ、と返した政宗は立ち上がり、自ら着崩れを正し
「戻るか」
と、また“遠方の姫”を装った。
「はっ」
半歩後ろで共に歩き始める。
林を丁度抜けた所で、政宗はふと視線を投げて悪戯な表情を浮かべると
「ま、お互い出し足りねーみてぇだから、また今宵な」
と、稽古の約束かなにかのように、簡単にさりげなく誘ってきた。
「全く・・・貴方という方は」
「なんだよ、小十郎。お前だって先刻はそうしたい、って顔に書いてあったぞ」
「ええ、そう望んでおりますれば」
「は?」
「夜が更けるのが待ち遠しいですな」
政宗は意外すぎる返答に目を白黒させて見返した。
余裕を取り戻した小十郎が、少し口元に笑みをたたえ見詰めてくる。
だがその瞳の奥にはまだ昇華していない熱もこもっているようで。
まだまだ甘い時間が続いていて、夜はこれからなのだった。