「勿体無きお言葉・・・ですが、小十郎は何もしておりませぬ。ただ傍に置いて頂いただけ。政宗様が強きお心をお持ちであったからこそ・・・」

「傍に、居てくれただろ?」

「!」

「俺はお前が言う程強くはねぇ。お前が隣に居たからこそ自分を信じてここまで来れたんだ」

「政宗様・・・!」


胸の痛みが強くなる。


ふと既視感を感じた。

以前にもこんな事があっただろうか?


「お前は竜の・・・俺の宝だ」

「!」


木々の隙間からこぼれている僅かな光が翳った事に気付くと同時に目の前が真っ暗になった。


瞼に温かい感触。

政宗の手の平に覆われたのだとわかったのは、唇に柔らかなものが触れた時だった。


驚きのあまりに声もでなかった。


触れたものがなんであったかなど明確で。

その温かさに自分の唇にまで熱がうつったようだった。


「・・・また来ようぜ」


覆われた手の平がどけられると、少しはにかむように笑む政宗の顔。




『こじゅうろう、俺のそばにいろよ?』




記憶の中の、今より一回り小さな政宗も、同じように笑っていた。

ほんのり頬を染めて。


確かあの時も、拙いながらも感謝の言葉を紡いでくれていたのだ。



離れてみて、存在の大きさを思い知ったのは小十郎も同じで。

再び近づいた今となっては、もう後戻りなど出来ないところまできていた。


「政宗様・・・お戯れを」


どうにか口にした一言も、


「戯れじゃねえって言ったらどうする?」


軽やかに否定をされてしまう。


突然気がついてしまった気持ち、心の整理をする暇もくれないせっかちな主。

平静を保って、どうにか誤魔化そうとするもなかなか言葉にできずに、眉間に皺が寄るばかりだった。


「Hey小十郎・・・ちったぁ甘い顔でもしてみせろよ」


そう言って、眉間にも柔らかな唇で触れてくる。


「政宗様、どうかその辺でご勘弁いただけませぬか・・・っ」

「・・・なんだよ、迷惑だって事か?」


悲しげな声音を耳にしたら、途端に胸がぎゅうと締め付けられた。

傷ついたように口を尖らせる政宗は、昨日までこの目に映っていた主の姿とは全く違う風にみえる。


それが自分の心境の変化によるものだという事もわかっていた。


「そういう事ではありませぬ!ですが・・・よくお立場をお考えください・・・!」

「迷惑じゃねぇんなら止めねえ」


頬にも口付けられる。


「ま、さむね様・・・!」


今まで政宗―――自分の主の為に、奔走してきたのは、純粋に忠義故。

揺るぐ事のない堅固な忠誠と決意からであった。


けれど今、根底にあったものが暴かれたような気持ちになって、もはや頭の中は混乱している。


政宗は、余裕のない小十郎の様子を悪戯好きの子供のような顔で観察しながら、首に吸い付いてきた。


「・・・っま、政宗様!お止めくだされ!」

「んな近くで怒鳴んなよ、耳が痛ぇだろ・・・」

「とにかく、悪戯が過ぎます!」


一度意識をしてしまったら、その姿を見る事にも躊躇いを覚える。


「仕方ねえ・・・もう少しだけ、待ってやるよ」

「・・・待つ・・・と申しますと」

「ここ、整理しとけよ」


そう言って親指で小十郎の心臓の辺りをつついてきた。


「・・・」


悟られてはならない、そう思いとぼけようとするも最後の追い討ちをかけられる。


「お前から、口付けろよ」


普段、頭脳戦で行けば小十郎の方が一枚も二枚も上手だというのに、今この時ばかりは圧倒的不利であった。


「な、なんと・・・?」

「そしたら、今日のところはこれ位で勘弁してやる」

「な・・・!」

「ん」


目を瞑って顎を上向かせられた事で、もう逃げ場がない、と感じる。


「勘違いするな、小十郎。これは命令じゃねえ。・・・“お願い”だ」

「!」


いよいよ目の前がぐらぐらと揺れてきた気がした。

長年培ってきた忠誠心やら、決意やらが、音をたてて崩れていくようである。


「・・・こじゅうろ」


きゅ、と両の手で、小十郎の着物の左右の袂を握り締めている手が、僅かに震えていた。


それを目にした時頭が真っ白になって、気がついたら目の前の政宗の唇を、食むように口付けていた。


「ん」


先程、政宗がしてきた触れるか触れないかの口付けよりも、格段に深く重ね合わせた。


縋りつく場所を探して空を漂う手に手を絡めて、しっかりと握り締めた。


この手をとったら、もう後戻りは出来ない。

心のどこかではそれを感じていた。


名残惜しく互いの唇を離すと、深い口付けが息苦しかったのか、瞳が潤んでいる。


「・・・俺の事を放っておいたりするから、お前の事が好きだって気付いちまったんだから、責任、とれよ」

「・・・仕事に没頭するのも善し悪しという事ですな・・・」

「Ha?お前それどういう意味だよ・・・!」


睨んでくる顔にも色気を感じてしまい、直視できずにその身体を抱きしめた。


「本当に、政宗様を離せなくなってしまいます」

「・・・だからそうしろって言ってんじゃねーか。・・・お前の仕事は俺の背中を守る事、だろ」

「それはもはや仕事という域ではありませんね。俺の唯一無二の生き甲斐です」

「だったら。お前はもう仕事はすんな」


その言葉に、思わず笑ってしまう。

政宗も笑い出して、何故だか無性におかしくて互いに顔を見合わせて笑いあった。



いつの間にか少し赤くなってきていた陽の光は、泉の美しい蒼を柔らかな橙色に染めあげていた。

まるで蒼き竜の心の内を示すかのように。




□■戻■□


リクエスト→露瓶サマへ

連載を挟んでしまって時間がかかってスミマセンでした!!
しかも、リクが「仕事で忙しい小十郎に構ってもらえなくて拗ねる政宗」だったのに
あまり繁栄されてないです・・・最初だけ><
結局話が逸れてしまいました(^−^;)もう笑うしか
で、たまには真面目な感じのお話を書いてみたくて書きましたー
二人が片想い同士という。そのせいかあまり甘くないかも、です。
そしてまさかの久し振りの全年齢設定!!
下ネタの絡んでないチュウまでを全年齢で
下ネタの気配がするチュウからはR15にしてます。線引きが良くわかりません☆
余談ですが、政小イベントいった影響か後半一瞬政小テイストになってます(笑
気に入って頂けるか不安ですが、リク小説とさせて頂きます!!